リンク・エコロジーカフェトップページへ
  リンク・FAQ よくあるお問い合わせ リンク・メールマガジン リンク・お問い合わせ
 
リンク・ニュース・トピックス リンク・エコカフェとは リンク・活動内容 リンク・エッセイ リンク・コラム 特派員レポート リンク・会員フォーラム

 

エコロジーカフェ >> 解説・用語集 >> 屋久島

屋久島

屋久島とは / 屋久島の形成史 / 屋久島の植生の垂直分布 / 屋久島の蘚苔類・地衣類 / 屋久島の動物たち

屋久島とは

1993年 12月 11日に世界自然遺産に登録された屋久島は、九州最南端の佐多岬から南南西に約60kmの海上に浮かぶ周囲約132kmのほぼ円形 (東西約28km南北約24km) の島である。面積は約504km2 (東京 23区ほど) で、日本では 9番目に大きな島であるが、車で海岸線の周遊道路 105kmを一周しても、2時間半程しか要しないことからも小さな島ともいえよう。

その屋久島には、九州最高峰の宮之浦岳 (1936m) をはじめ 1000mを超す峰々が 46座、うち 1500mを超すものは 20座もある。平均斜度は 37°と極めて急峻で、大半が山岳、山地であり、平地は島の西部を除く海岸線にわずかにある程度である。この地形が織り成す気候には、実に海岸域の亜熱帯から山岳地帯の亜寒帯までが含まれ、九州から北海道までの気候が一つの島でみられるという。

また、広大なアジアモンスーンの中にあって、夏は南東モンスーン、冬は北西モンスーンの影響を受けるとともに、巨大な暖流である黒潮が北上しながら海洋から大気へ大量かつ活発に熱と水蒸気を供給している。2000mにも及ぶ急峻な地形の上空では急激な冷却を受けるため、冬場の降水はやや少ないものの一年を通じて、猛烈な雷雲や雲霧が発生しやすい。年間降水量は、日本で最も多く、平地で 4500mm、山岳地で多い年には 10000mm 超ともなる。

この豊富な降水は、花崗岩の山肌を洗い、V字谷を刻み、湧水を生じ、幾多の瀑布となり、屋久島の自然を他に例のない類まれなものに育んできた。自然水は、花崗岩に洗われ、海塩起源の Na-Cl 型の水タイプとなる。水質の硬度は 6ppm 以下と超軟水でミネラル養分に乏しい。島の面積の 90% を占める森には、樹齢 7200年といわれる縄文杉をはじめとする樹齢千年を超える多くのヤクスギが生育している。この小さな島には、被子植物 1136種が分布するとともに、日本のシダ植物約900種のうち 388種、日本の蘚苔類約1600種のうち 615種が集中し、地衣類は樹上・岩上に豊かに生育するなど特異である。
屋久島の蘚苔類・地衣類

また、屋久島に固有な植物種が 47種、固有な亜種が 37種にのぼっている。スギをはじめ屋久島を南限とする植物が約150種、ガジュマル、木性シダのヘゴをはじめ屋久島を北限とする植物が約20種分布し、南北の境界領域に相当している。さらに、海岸部から亜高山帯に及ぶ植生に典型的な垂直分布が見られる。

動物相については、第四期更新世を通じ、九州・本州と陸続きであったことから、陸移動による動物は北方系のものしかいない。哺乳類のヤクザルヤクシカは、ニホンザル、ニホンジカの亜種とされ、イノシシ、ノウサギ、タヌキ、キツネ、アナグマを欠いている。近年、ペットとして持ち込まれた一対のタヌキが野生化し、数を増やし、全島低地から山地にまで分布を広げ、島の固有の生態系に強い圧迫を与えるなど問題となっている。また、島嶼に特異である固有種、特に固有亜種に富んでいる。

最後に、世界自然遺産登録にあたり、「陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や生物群集の進化発展において重要な進行中の生態学的生物学的過程を代表する顕著な見本」であり、「類例を見ない自然の美しさ、あるいは美的重要性を持ったすぐれた自然現象または地域を包含する」と判断された。登録対象は島の面積の約21%、宮之浦岳を中心とした島の中央山岳地帯に加え、西は国割岳を経て海岸部まで連続し、南はモッチョム岳、東は愛子岳へ通じる山稜部を含む区域とされている。特に、西部域は天然の照葉樹林が鬱蒼とし、原生自然環境保全地域とされている。

表2 屋久島の気候と指定地域

項目 概要
年間平均気温 平地:19.4℃ / 山地:6℃台 (山頂:推定計算値)
年間降水量 平地:約4500mm (平地) / 山地:約7500mm (5ヵ年平均)、10000mm 超 (最高)
*東京 1500mm 前後、札幌 1000mm 前後
指定地域 世界自然遺産登録地 国有林 (生態系保護地域) 10,260ha ----
民有林 487ha
特別天然記念物 (地域) 2,900ha  
霧島屋久国立公園 (2002年地域変更拡大) 20,989ha  
海中公園地域新指定 114.4ha  
原生自然環境保全地域 1,219ha  
森林生態系保護地域 (国有林) 保存地区 9,601ha  
保全利用地区 5,585ha  
森林生態系保護地域以外の国有林 23,230ha     

▲このページのトップへ

屋久島の形成史

大隅群島から先島群島にかけ二重島弧を形成し、内側 (東シナ海側) に火山島が外側(太平洋側)に隆起による島が連なって点在している。これは、フィリピン海プレートが北北西に移動しながらユーラシアプレートの下に低角度で沈み込んでいることに起因している。屋久島の北西の海上にある口江良部島と薩摩硫黄島 (注1) は火山島であるが、東の海上にある種子島は屋久島と同様に隆起による島である。

屋久島の形成は、海底の 6300万年から 3600万年前の堆積岩四万十層群 (注2) を乗せたユーラシアプレートにフィリピンプレートが1700万年前頃から低角度で沈み込みはじめたことに起因する。沈み込むプレートの上部のプレートのリソスフェア内の堆積物の一部が溶解し、マグマとなり地下 12km 付近で、1400万年前から 1300万年前頃にかけ、ゆっくり冷えて正長石の大きな結晶を含む特徴的な花崗岩 (注3) が形成されたとされる。

この花崗岩は 2.64g/cm3と周囲の岩石より比重が軽いことから浮力が生じ、四万十層群に貫入し、袖曲、断層などの地殻変動を伴いながら、1400万年の時をかけて、地下 12km から地上 2km まで隆起し、島を形成。貫入に伴って、四万十層群の接触部分が高圧高熱により硬いフォルンフェルス (接触変成岩)に変成し、花崗岩と堆積岩の境界領域を構成している。花崗岩は浸食しやすいため山岳部の至る所で露出し、トーフ岩やローソク岩などの奇怪な景観をつくっている。

また、花崗岩は冷えて固まるときに体積が小さくなるため、一定の方向に隙間である節理を形成する。屋久島のものは縦横に亀裂が入る方状節理であって、摂理に沿って、破砕したり、年月を経て渓谷ができたりする。そこで、屋久島を上空から観察すると、尾根筋と渓谷が、一方は北西-南東方向に伸び、もう一方は北東-南西方向に直行するように伸びているのがわかる。

屋久島が海上に顔を出した時期は定かではないが、少なからず第四紀更新世を通じて種子島、九州と陸続きであったとされている。その後は孤立し、約7300年前に鬼界カルデラ付近で火山噴火があり海を越える火砕流 (体積100km2) が発生し、全島をアカホヤ火山灰 (注4) が覆い、現在でも宮之浦岳の頂上にも同一起源の軽石が厚く堆積しているとされる。

硬いフォルンフェルスも島の所どころで露出しているのが観察できる。屋久島の隆起は、現在も続いており、風雨による浸食を差し引いても1年に 1mm 程度上昇していると推定される。東海上に位置する種子島は四万十層群 (熊毛層群) のみから形成され、屋久島と同様に隆起を続けているが、こちらは海岸段丘がよく発達しているのが観察でき、屋久島との比較で面白い。

▲このページのトップへ

(注1) 薩摩硫黄島

薩摩硫黄島は、約7300 年前 (暦年補正) に広域火山灰であるアカホヤ火山灰を噴出した鬼界カルデラのカルデラ壁に生成した火山島で、5000年前以降に形成された流紋岩質の厚い溶岩流や溶岩ドームからなる小型成層火山の硫黄岳と、3000 〜 4000年前に形成された玄武岩質の稲村岳からなる。このうち硫黄岳では、500 〜 600年前に火砕流を伴うマグマ噴火が発生し、現在も噴煙をあげている。

(注2) 四万十層群

房総半島から関東山地、赤石山脈、紀伊山地、四国山地南部、九州山地南部を経て沖縄本島までの長さ 1,800km にわたって帯状に分布する地層群で、 中生代白亜紀から新生代古第三紀にかけて形成された典型的な付加体であって、海洋地殻とその上に堆積した砂や泥が海溝に沈み込む際に衝上断層によって多数の地塊に分割され、傾斜しながら地上に押し上げられて地表に露出したものである。屋久島の付加体は、種子島と同様に四万十層群のなかでも熊毛層群と呼ばれている。

(注3) 花崗岩

花崗岩は、主成分が石英、長石で10%程度の黒雲母など鉱物を含む。日本列島における花崗岩の多くは、日本海側 (内帯) に近い列島の内部でみられる。しかし、例外的に、太平洋側 (外帯) の紀伊半島から四国南部、九州南部にかけて、点々と約1000km にわたって 1200万年前から 1700万年前にできた比較的新しい花崗岩がみつかる。屋久島の花崗岩も、新第三紀のはじめ頃 (中期中新世と呼ばれる時代、1300万年前から 1400万年前頃) にできたこの仲間である。

密度が高く硬いほうのフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に北北西方向に低角度で沈みこみ、上部の堆積物が熱溶解し、マグマを生じ、マグマが地中深さ 12km 付近でマグマだまりをつくった。その後にマグマはゆっくりと冷えて固まり特異な S タイプ花崗岩を変成した。花崗岩が冷えるときにできた節理のタイプは方状節理である。摂理の方向に沿って大きな渓谷ができている。

この S タイプ花崗岩は、長辺の長さが 10cm 以上の大きな正長石の結晶 (縦:横:高さの比 = 3:3:1) を含み、この正長石の長辺の長さは島の中央部で 10cm 以上にも及び、周辺部ほど結晶は小さくなっている。また、正長石は成長しながら初期花崗岩体の流動し熱流動方向に均一の配列をつくる。この結晶形状と配列状態から、屋久島の基盤を形成する花崗岩体は東側上部が上昇最頂部に相当し、上昇は北西から南東に向かって斜め上向きに上昇を始め、1400万年をかけてゆっくりと上昇したと推測されることになる。

(注4) アカホヤ火山灰

アカホヤ火山灰は、約7300年前に南九州の海底火山 (鬼界カルデラ) が噴火活動した際に、東北南部までを覆うくらい広範囲に火山灰が降下してできたものである。この火山灰は、赤味がかった黄色のガラス質のもので、ガラスを「ホヤ」と呼ぶことからこのように名前が付けられた。屋久島では、近い距離にあったため海を越えての火砕流があったとされる。このアカホヤは広範囲に短期間に堆積していることから、鹿児島県、大分県では旧石器時代の大きな変化を与えている。堆積前後で、土器様式が全く異なっており、降下前の旧石器人は壊滅的であったと推測される。この火砕流ないし火山灰が屋久島の生き物たちに与えた影響も計り知れないだろう。

▲このページのトップへ

屋久島の植生の垂直分布

屋久島は第四紀更新世を通じて、種子島とともに九州本土と陸橋で繋がっていたとされるが、ブナの南下進出はなかった。ブナは、陰樹性のため陽樹性のスギに取って代わり、極相林を形成することが知られている。屋久島ではブナを欠くためヤクスギの豊かな森が許容されたと考えられる。

また、気候は、ハワイ島などと同様に海岸と山岳地では全く異なる。気温は高さが 100m 上昇すると約0.6℃下がる。したがって、海岸で 20℃あっても山頂では 8℃に過ぎない。しかも上昇気流が生じ風は強く雲が湧きやすいため山岳部は厳しい気象条件下にある。

このような場合、その植生は温度分布変化が亜熱帯から亜高山帯までの垂直的な特徴を示すことになる。水平的に表現すれば北海道までの植生分布が垂直的に存在することになる (図5 参照)。「第25回エコカフェ草花教室講義ノート」及び「屋久島エコツアーのしおり」からその特徴を抜粋的に少し解説することとする。

「屋久島の植生の垂直分布」(表3) をご覧いただきたい。海岸や低地では亜熱帯から暖温帯下位の海岸林照葉樹林がよく発達し、標高が上がり、600m くらいからスギ、モミ、ツガなどの針葉樹が出現し、照葉樹林との混合林を形成する。800m 付近は針葉樹林が優勢である。900m くらいからはヒメシャラ、イイギリ、カエデ類など落葉広葉樹が出現し、1000m を超えると照葉樹は極端に少なくなる。

ヤクスギは 500m から 1500m の間に出現し、雲霧や多雨のため多く着生植物をまとっていて、紅葉の季節は綺麗である。この森では、ヤクスギだけではなく混生するヤマグルマ、ツバキなどの常緑広葉樹やヒメシャラ、オオシマザクラ、コハウチワカエデなどの落葉広葉樹などもすべて巨木化している。しかし、1500m を超えると、風衝帯と呼ばれ風が強いため、ヤクスギの中には樹皮が凍結と強風で剥がされ立ち枯れしたものや多くの草木類が背を低く萎縮化させている。特に 1800m を超えると貧栄養が加わり擬似高山帯に近い亜高山帯なっている。

山岳部の表層度は、長年の降雨で洗い流され、薄層となり、花崗岩の岩盤が剥き出しになっている場合が多く、ヤクスギなどの樹木の根網が岩盤表面を這い回っていたりする。

また、屋久島には花之江河という日本最南の高層湿原がある。2800年前から 2600年前にかけ誕生したとされる。ミズゴケやモウセソゴケなどのコケ類の植物が団塊状に群生しているのが珍しい。この辺りは矮小化した小さな固有植物であるイッスンキンカ、ヒメコイワカガミ、ウメバチソウ、ヤクシマホシクサ、コオトギリ、コケスミレなどが多くみられる。花之江河の高層湿原周辺部分には雨水と涵養した湧水がまざる日本最南の中間湿原が展開している。

表3 屋久島の植生の垂直分布

標高・地点 内容
0m〜200m
海岸低地林

100m〜500m
暖温帯照葉樹林
第一層 (高木層) スダジイ、アコウ、ガジュマルなどの高さ 20m の高木、その幹には花の美しいランや豪快な姿のオオタニワタリなどの着生植物や鋭い鈎をもつカギカズラや厚い葉をもつサクラランなどの地面から這い上がる蔓植物が出現
第二層 (亜高木層) モクタチバナ、フカノキ、ショウベンノキなどの高さ 10m 内外の木
第三層 (低木層) リュウキュウアオキ、シマイズセンリョウなどの 1〜3m の低木
林床 (草木層) アオノクマタケラン、クワズイモ、フウトウカズラ、オオイワヒトデ、イシカグマ、ユウコクランなどが優先する群落が局所的に発達し、大型のシダが混入
500m〜600m
暖温帯照葉樹林
タブ、シイ、イスノキなどの照葉樹林が発達。安房川の谷の入り口付近に自然林が残る。林床には、アオノクマタケラン、サンショウソウ、トクサラン、サツマイナモリなどの他に、タカサゴキジノオ、ミヤマノコギリシダ、ヘツカシダ、コバノカ ナワラビ、ヤクカナワラビなどのシダ植物が覆う。
600m〜900m
暖温帯混合林
ヤマグルマ、アカガシ、イスノキなどの照葉樹林に混じってスギ、ツガなどが出現。小杉谷の下部、荒川の入り口付近ではスギの優良林を含む。林床には、シダ植物の種類が豊富で、ミヤマノコギリシダ、ベニシダ、キジノオシダ、オオキジノオ、ヨゴレタチシダ、ホソバカナワラビなどの優占度が高い。
900m〜1500m
暖温帯針葉樹林
スギ、モミ、ツガなどの針葉樹林に混じってヤマグルマ、イスノキ、ユズリハ、アカガシ、シロダモ、イヌガシなどの照葉樹、サクラツツジ、ヒメシャラ、ハリギリ、ナナカマド、カエデ類などの落葉広葉樹が出現。小杉谷の大部分、荒川谷、小楊子川谷などによく発達し、スギの成長のよい原生林。林床には、タカサゴシダ、キジノオシダ、タカサゴキジノオなどのシダ植物によって占有。
1500m〜1800m
冷温帯針葉樹林
萎縮した針葉樹林が続き、スギ、ツガ、モミなどの風衝林にナナカマド、サクラツツジ、ヤクシマシャクナゲなどの低木林が出現。林床には、コミヤマカタバミ、コケスミレ、ヤクシマテンナンショウ、ヒメツルアリドオシ、キッコウハグマ、ホソバトウゲシバ、オオキジノオシダなどの生育がめだっている。
1800m以上の
奥岳亜高山帯
ヤクサザ帯が出現し、低木状のスギに混じってヤクシマシャクナゲ、ビャクシンなどが地表を這っていて、擬似高山帯的な景観。これは多雨のため表土が流出し貧栄養土となっているためと考えられる。

▲このページのトップへ

屋久島の蘚苔類・地衣類

屋久島の森で特質すべきことは、深い霧が沸き立ち流れる気象にあって「モスフォレスト」といわれるように、樹肌、樹上、倒木、岩上、地上など森の至る所に蘚苔類 (コケ類) や地衣類が極めて発達していることである。

屋久島に生育する蘚苔類 (注1) は、何と 615種 (蘚類 44科148属340種、苔類34科80属275種) を数え、日本の蘚苔類約1800種の 34% を占める。地衣類 (注2) も樹上や岩上などに多様な種類が生育している。変形菌 (粘菌) という胞子により繁殖するという植物的性質を合わせ持ち、変形や合体をして動物のような動きを見せる特異な生物も生育している。このように多様性が高いのは、屋久島の森が、非常に雨が多いこと、雲霧がかかりやすく林内に常時高い湿気があること、天然林であり着床するための樹種や古木が多いこと、倒木や天然更新する林床があることなど、多様な生育環境があるからである。

蘚苔類プラの特色は、まず、標高約1000m 付近で北方系と南方系の種の交錯がみられることである。これは過去の寒冷な時期に下降してきた北方系の種が、温暖になるにつれて、標高の高い場所で安定するとともに南方系の種が侵入したために共存していると考えられる。次に、ミズゴケ類が土壌や腐植土を介せずに直接岩上に生育していることである。

地衣類プラの特色を記述するには至らないが、屋久島では、屋久島以南の暖性地衣類であるシマハナビラ、葉状地衣類の仲間 (アオバゴケ)、オニサネゴケ、ユモジゴケなど熱帯から亜熱帯に広く分布する種が多いとされる。日本の地衣類は1762種が報告されているが、今後新たに発見されるケースも多いと考えられており、屋久島でも同様なことが期待される。

(注1) 蘚苔類

蘚苔類は一般に「コケ植物」とも呼ばれ、葉緑体をもつシダ植物や種子植物と同じ植物の仲間であり、「蘚類 (せんるい)」、「苔類 (たいるい)」、「角苔類 (つのごけるい)」の 3グループに分けられる。

グループ 特徴
蘚類 植物体 (配偶体) が茎葉体で、直立性とほふく性があり、仮根が多細胞である
苔類 植物体が茎葉体または葉状体であり、細胞に油体があり、仮根が単細胞である
角苔類 植物体が葉状体であり、牛の角のような胞子体をもつ

*茎葉体…はっきりと茎と葉に分化した配偶体のこと
*葉状体…葉が扁平である配偶体のこと

(注2) 地衣類

地衣類は菌類と藻類の共生体であり、系統的には蘚苔類とは全く異なる生物で、菌類に分類される。地衣類の体を地衣体と呼び、地衣体の大部分は共生菌の菌糸で構成され、内部構造は皮層、藻類層、髄層に分化し、おのおのの配置や組織は地衣類の種類によって異なっている。「葉状 (ようじょう)」、「樹状 (じゅじょう)」、「痂状 (かじょう)」の 3グループに分けられ、葉状は木の葉のように平たい形をしているもの、樹状は木のような形をしているもの、痂状はちょうどペンキを塗ったように基物の表面を薄く覆うものである。

表4 屋久島の蘚苔類の分布の特徴 (九州森林管理局ホームページ参考)

場所 特徴
標高 400m 程の渓谷の森林 トサノタスキゴケ、ハリヒノキゴケ、ヒメヒョウタンゴケ等の熱帯・亜熱帯の蘇類、タカサゴソコマメゴケ、ムカデゴケ等の苔類が出現
500m ないし 600m から上の暖温帯林内 ナガエスナゴケ、オオミズゴケが出現
小杉谷付近 ヒムロゴケ、キダチヒラゴケ、ヘチマゴケ、ミズスギモドキ、ヒロハノヒノキゴケ等の蘚苔類の着生、ヤクシマスギバゴケ、オオサワラゴケ等の苔類が出現、小杉谷の上部にヤクシマゴケが現われ大群落を形成
800m から 1,200m 付近の小灌木 ハシボソゴケの着生
1,000m 付近までの岩 洗われる岩に水滴を含んだホウキゴケ等が出現
1,300m 付近 オオミミゴケ、タカサゴサガリゴケ等が木の枝から懸垂し、ユワンハネゴケ、ムチハネゴケ等の苔類が着生し、ヒノキゴケ (イタチノシッポ) が腐植土にみられ、ヤクホウオオゴケが洗われる岩に生育
宮之浦岳の路傍 クロゴケ、ミヤマツボミゴケ、コセイタカスギゴケが生育

▲このページのトップへ

屋久島の動物たち

屋久島は、動物地理区上は種子島とともに九州以北の旧北区に属する。日本列島は、屋久島の南に位置するトカラ諸島と奄美大島との間 (具体的には、トカラ諸島の悪石島と奄美諸島の小宝島の間) のトカラ構造海峡 (渡瀬線ともいう) という分布境界線により動物地理区上二分されている。トカラ構造海峡より北は旧北区、南は東洋区と呼ばれるが、植物、哺乳類、両生類、爬虫類、チョウ以外の昆虫類、蜘蛛類、陸産貝類などについては良く当てはまるが、チョウ、鳥類に関してはあまり当てはまらないとされる。また、大隅半島と屋久島の間の大隅海峡上に三宅線という分布境界線があり、チョウには良く当てはまるとされている。

このことは、屋久島の島としての成立と関係があると推測されている。トカラ海峡は、第三紀の構造運動で形成されたのかも知れない。ただし、屋久島の南に位置する奄美群島との地理的関係を明らかにすることは困難であるようだ。屋久島は、リス氷期までは九州とともに大陸と陸続きで、リス-ヴィルム間氷期とヴィルム氷期には九州とは陸続きで会ったが大陸とは離れ、最氷期頃に陸橋で繋がっていたと考えられている。

特に、哺乳類は、北方系のものが多く南方系のものは存在しない。また、屋久島は、日本の固有種であるニホンザルニホンジカの南限に位置し、何れもそれらの亜種とされている。ホンドイタチの亜種のコイタチも分布している。一方、九州や本州でみられるイノシシ、ノウサギ、タヌキ、キツネ、アナグマの類は分布していないが、約7300年前の鬼界カルデラの海底火山噴火による火砕流などと関係しているのかも知れない。

ヤクザルは、ニホンザルの亜種として分類され、ニホンザル分布域の南限となる屋久島だけに生息している。その頭数は全島で約3,000頭と推定されている。サルは南方を起源とし、ニホンザルの祖先はおそくとも 40万年から 50万年前のブナの森が広がっていたミンデル氷期に大陸から朝鮮半島を経て日本列島に入り、本州に拡大し、25万年から 12万年前のリス氷期に屋久島に終着したと推定され、時間経過から亜種程度の変化に過ぎない。なお、その後は新たな侵入はなかったと考えられており、岡山・兵庫あたりを境に西日本タイプとこのタイプがヴィルム氷期 (最終氷期) の後 1万8千年前頃から青森まで分布を拡大した東日本タイプに分けることができるとされる。

ヤクザルの生息域については、海岸域の亜熱帯林要素の混在する暖帯林から山頂部のヤクザサ帯までの高度差 1,800m 付近にまで渡っていることが明らかになっている。ニホンザルとの体型上の違いは、体形がやや小さく、体毛が長いことが挙げられる。また、生態学的な特性や行動上の特徴は、季節により餌を求めて垂直方向に移動することや標高の高いサルは葉っぱを多く摂取するなど一部が判明しているが、詳細は今後の調査研究の結果を待ちたい。

ヤクシカは、約5000頭が生息、九州本土に分布する基亜種キュウシュウジカ、本州に産するホンシュウジカとは別の亜種の関係にあるとされている。ニホンジカの祖先は、30万年から 40万年前のミンデル-リス間氷期に朝鮮半島を経由して西日本に入ったグループと 2万年から 3万年前のヴィルム氷期の最氷期 に大陸経由で北日本に進出したグループがおり、現在、北海道を含み地域的に7亜種のニホンジカが分布している。

ヤクシカの体型上の特徴は、ホンシュウジカ、キュウシュウジカに比して、大きさがひと回り小さく、角が細く、短く、枝分れが2つに過ぎないなどが挙げられる。ヤクシカの分布密度には、地形や環境による濃淡が見られ、原生林内、特に標高 1,000m以上の地域については、分布密度は非常に高いものがある。シカの活動形跡は海抜を増すに従って増加する傾向があり、山頂部のヤクダケにも食痕が見られる。

表5 屋久島に生息する動物たち

分類 特徴
哺乳類 9科 16種
  • 屋久島固有亜種は、ヤクシカ、ヤクザル、ヤクシマジネズミ、ヤクシマヒメネズミの 4亜種
  • 屋久島・種子島の共通亜種は、セグロアカネズミ、タネハツカネズミ、タネジネズミ、コイタチの 4亜種
  • 九州本土との共通種が 3種、北海道地方へ及ぶ種が 2種
  • 南方系のものは全く認められず、一方九州本土や本州でみられるイノシシ、ノウサギ、タヌキ、キツネ、アナグマの類を欠く。
鳥類 40科 150種
  • 屋久島固有亜種は、ヤクシマアカコッコ、ヤクコマドリ、ヤクシマカケス、ヤクシマヤマガラの 4亜種
  • 屋久島・種子島の共通亜種は、シマメジロ、タネアオゲラ、オガワミソサザイ、ヤクシマキビタキの 4亜種
  • 屋久島・種子島・奄美大島の共通亜種は、リュウキュウキビタキの 1亜種
  • 屋久島を分布の北限とするものは、リュウキュウヒクイナ、リュウキュウハシブトガラス、リュウキュウウグイス、リュウキュウズアカアオバトなど。
  • これらの鳥類のうち、アカヒゲ、カラスバト、アカコッコ、イイジマムシクイの 4種は天然記念物に指定。
爬虫類 7科 15種
  • 屋久島固有亜種は、ヤクヤモリの1亜種
  • その他はすべて九州本土との共通種
  • ヘビ類では、シマヘビ、アオダイショウ、ヤマカガシ、ジムグリ、マムシがいずれも南限
  • トカゲ類のトカゲ、カナヘビはいずれも南限
両生類 4科 8種
  • 屋久島固有亜種は、ヤクシマヒキガエル、ヤクシマタゴガエルの 2亜種
  • 両生類はすべて北方系
昆虫類 20目、240科、1,896種
  • 代表的なトンボ、チョウ、カミキリムシは下記のとおり
  • この他にも蛾類、セミ類、甲虫類、コオロギ、キリギリス、ハチ、アブなども多い。
トンボ
(蜻蛉)
7科 26種
  • 屋久島固有亜種のヤクシマトゲトンボ、日本産サナエトンボ科中最小のチビサナエ、屋久島が生息北限地とされているヒメトンボ、通常は特定の沼や田に定着するネキトンボが生息
チョウ (蝶) 9科 67種
  • キリシマミドリシジミの亜種ヤクシマミドリシジミと、シロチョウ科のチョウとしては世界最大で最も美しいとされているツマベニチョウが生息
  • 南系のものが多く認められる
カミキリムシ
(髪切虫)
139種
  • 日本特産の分布型に含まれる種数が 62種であり全体の 47% を占めている。
  • 屋久島が南端となっている分布型とそれに含まれる種類が 56種と多い。
  • 屋久島が北端となっているのはわずかで、そのすべてが台湾を含めた琉球列島の固有種
  • 屋久島の固有種は、ヤクシマヨツスジハナカミキリ、ヤクシマホソコバネカミキリなど 6種、特産亜種も 6種が報告されている。
魚類
(淡水魚)
7科 13種
  • 河口付近にハゼ、ウナギ、中流下部・下流域にウナギ、アユなどが生息
  • 河川が短く急流なため水中のプランクトンや藻・水草などの繁殖が乏しいことから、それらを食餌とする淡水魚類の種類も個体数も少ないと推察
陸産貝類 16科 71種
  • 屋久島特産種は、ヤクシマゴマカイ、ソナレガイ、アシヒダナメクジなど 14種類
  • 南九州との共通種は 32種類、奄美大島との共通種は 10種類
淡水貝類 1科 1種
  • 北方系のハベマメシジミのみ (絶滅危惧種 IA:花之江河が唯一の生息地)

▲このページのトップ

 

当サイトコンテンツの著作権はNPO法人エコロジーカフェの下にあります